いよいよ今週の土曜日14日から、本橋成一監督の四作目となる『バオバブの記憶』が劇場公開される。それに先駆け、9日からは、ミツムラ・アート・プラザにて写真展が開催される。
本橋監督とバオバブとの出会いは、今から35年前のこと。テレビの動物番組の撮影で訪れた国立公園で、大草原の中にキリンやゾウ、ライオンと共に点在するバオバブを目にして以来、アフリカに行く度に、いつも寄り道してはバオバブの下へ通い、写真を撮りため、いつかこの樹と人々の生活を映画にしたいと構想を温め続けてきた。そして、2007年より撮影を開始し、今週末、いよいよ念願の公開となる。
バオバブといえば、サン・テグジュペリの「星の王子さま」を思い出す人も少なくないだろう。この本の中では、バオバブは、あっという間に根がはびこって、小さな星を破裂させてしまう恐ろしい樹。だから、王子さまはバオバブの芽を摘むことを日課にしている。
本橋監督は言う。きっとこの作家は、空の上からしかバオバブを見たことがなかったに違いないと。なぜなら、本橋監督が魅せられたバオバブの樹とは、その一度見たら忘れられない風貌もさることながら、人々にとってなくてはならないまさに恵みの樹だったからである。
バオバブは百通りの用途があると言われている。葉は粉にして料理に使い、根は煎じて薬に、実は子どもたちの大好きなおやつになる。その強靭な樹皮はロープに綯い、幹にできる洞は、水瓶や動物たちの住処、昔は人間の墓にもなった。
雨季が近づくと、どの樹よりも早く目を出すバオバブを見て、人々は落花生の種を蒔き、芽吹いた葉っぱは、待ってましたとばかり、家畜の餌と自分たちが食べるために、じゃんじゃん摘んでいくのだ。それでもバオバブには精霊が宿っているから、薪にはしないのだという。
そう、この映画の舞台となるトゥーバトゥール村の人たちは、バオバブには精霊が宿っていると信じ、困ったことがあれば、バオバブの下へ行く。バオバブは、人々の願いや悩みを聞き届けてくれるのだという。バオバブは生活の糧を恵んでくれるものであり、精神の拠り所なのである。
そのバオバブと村人の生活の時空間を、そのまま切り出したような映画である。もちろん、村人はそれなりにカメラを意識しているし、撮る上での演出もおおいにあるだろう。それでも、そこに流れている時間や空気感というものは、トゥーバトゥール村そのもの、と感じられ、そこに観る者をたっぷりと漬け込んでしまうのである。第三者の目で、“そのまま”を映し出すということが、どれだけの偉業であるか。今は、私自身、自分のちっぽけなものさしをはめ込まずに、祝島のそのままを撮りたいと切に思い続けているだけに、表面にはごくごく自然に見えるこのことが、私にはものすごいこととして響いてくる。そして始めから終わりまで、徹底した映像美には、揺るぎがない。
映画の中のバオバブを見ていると、なぜか、わたしの遠い遠い記憶の中にも、この樹の存在が既にあったような不思議な感覚におちいる。懐かしいのだ。そうだ、こういうことしてたよね、と思えてくる。人間の細胞の中に、誰しも刻まれている“記憶”なのかもしれない。
アフリカでの撮影を終えて帰国した本橋さんが、こんなことを話してくれた。
「いやあ、今回、バオバブの精霊にいたずらされたんだよ。ある村を訪ねた時に、あのバオバブがご神木ですよ、って言われてね、その時に、すぐに挨拶に行けばよかったんだけど、そのままにしていたら、側溝に落ちちゃってね。それが不思議なんだよ。ジャンプして、確かに飛び越えたはずなのに、飛んでいる間に、向こう側の地面がすーっと離れていったの。ほんとだよ。その時に、ああこれは、バオバブの精霊の仕業だなって思ったよ。」
ふふふっ。そうか。
本橋さんはやはり35年間、バオバブの精霊にちょっかいされ続けたのに違いない。そして、この映画を作らされたに違いない、そう思った。
どうぞ、みなさま、劇場に足をお運び下さい。できることなら、なるべく早くご覧ください。そしてその感想を、お知り合いにたくさん伝えてください!
映画『バオバブの記憶』
*東京 シアター・イメージフォーラム、ポレポレ東中野 3月14日(土)~
*大阪 第七藝術劇場 4月18日(土)~
*神奈川 ワーナー・マイカル・シネマズみなとみらい 5月9日(土)・10日(日)
本橋成一写真展『バオバブの記憶』
3月9日(月)~3月31日(火)
10:00~18:00 (日曜休館)
場所:ミツムラ・アート・プラザ(品川区大崎1-15-9 1F tel 03-3492-1181)
詳しくは →
『バオバブの記憶』公式HP
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- 2009/03/09(月) 01:14:42|
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